新型コロナウイルス感染症が有価証券報告書の開示に及ぼす影響【経理の状況編】

 今週、緊急事態宣言が解除されましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
 宣言は解除されたものの、私の会社では在宅勤務をもうしばらく継続するようで私自身自宅での勤務を続けています。

 在宅勤務などのワークスタイルの在り方などもそうですが、新型コロナウイルスが世の中に与えた影響は非常に大きいですね。余暇の過ごし方、学校教育の在り方、食生活など個人の生活のあらゆる領域に影響が及んでいることを日々実感しています。

 また、個人のライフスタイルだけでなく、企業の経済活動も大きな影響を受けています。在宅勤務、休業要請、資本的支援など企業への影響も多岐にわたると思いますが、今回の記事では、有価証券報告書の開示にスポットを当てたいと思います。

 4月中旬、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を鑑み、有価証券報告書等の開示書類の提出期限が今年の9月末まで延長されることが決定されました。新型コロナウイルスが企業の開示スケジュールに影響を及ぼしたわけですが、影響を及ぼす範囲は開示スケジュールだけにとどまりません。有価証券報告書における開示内容にも及びます。

 では、有価証券報告書で開示される大量の情報の中で、具体的にどの情報が影響を受けるのか?
 調べてみましたのでご紹介したいと思います。

(注)正確な情報の提供に努めておりますが、個人的な見解であり、必ずしも正確でない部分も含まれます。その点、ご留意頂きますようよろしくお願い致します。また、本稿に含まれる情報の参照元については、本稿の最後にまとめておりますので、適宜ご参照願います。

 

 

 

財務諸表への影響

 財務諸表への影響として、損益計算書上の表示への影響が考えられます。どういうことかというと、通常は営業費用として計上される一部の費用を特別損失として表示することが認められるということです。

 具体的には、休業要請等による店舗等の営業停止等があった場合に、その停止期間中に発生した固定費などが「特別損失の要件を満たし得るもの(1)」とされるようです。

 なお、特別損失として表示が認められるのは、「新型コロナウイルス感染症の拡大防止のための政府や地方自治体による要請や声明等に関連(1)」する費用や損失です。どんな費用でも特別損失として表示できるわけではないので留意が必要です。

 

注記情報への影響

継続企業の前提に関する注記

 財務諸表の注記として、まず始めに記載することとなるのが「継続企業の前提に関する注記」です。今回の新型コロナウイルス感染症の拡大は、様々な企業の業績に大きな影響を及ぼしており、その影響による売上高の急減や新型コロナウイルス感染症拡大という事象そのものが、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況に該当するかもしれません。

 そのため、そのような状況に該当すると判断した場合には、その状況を解消するための対応策を検討する必要があります。そして、対応策を実施してもなお継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる場合には、継続企業の前提に関する注記を行う必要があります。

 

追加情報

 財務諸表に計上される資産等の金額や損益等の金額は、実績値に基づくものが大半である一方で、企業の見積りに基づき計上されているものも多く含まれています。
 そのような会計上の見積りを行う上で、新型コロナウイルス感染症拡大の影響についてどのように取り扱うべきか、という点について、企業会計基準委員会から「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方(追補)」が公表されています。

 これによると、「新型コロナウイルス感染症の影響のように不確実性が高い事象についても、一定の仮定を置き最善の見積りを行う必要(2)」があり、「どのような仮定を置いて会計上の見積りを行ったかについて、重要性がある場合は、追加情報としての開示(2)」が必要となります。

 さらに、有価証券報告書の開示対象期の業績に重要な影響がなくとも、その翌年度以降の業績に重要な影響を及ぼす場合には、「新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に関する追加情報の開示(2)」を行うことが要請されています。

 開示対象期の決算における会計上の見積りに重要な影響があったか、開示対象期の決算には重要な影響がないが、その翌年度以降の業績に重要な影響があるか、新型コロナウイルス感染症に関する仮定の影響について精査し、その開示要否について慎重に判断していく必要がありそうです。

 

新型コロナウイルス感染症の影響による特別損失

 上述のとおり、新型コロナウイルス感染症の影響に起因して発生した損失は特別損失として表示することが認められます。この取扱いにより損益計算書に表示した特別損失については、注記にてその内容を具体的に説明することが考えられます。

 なぜ、このような注記が必要と考えるかというと、新型コロナウイルス感染症の影響により表示する特別損失の勘定科目は、「一般的には使用頻度の少ない特殊な勘定科目(3)」に該当することが考えられ、そのような勘定科目については注記によりその内容を説明する必要があるためです。「監査・保証実務委員会実務指針第77号 追加情報の注記について」の中でこの考え方が説明されています。

 なお、この注記は追加情報の注記として行うのではなく、「財務諸表上の当該科目に記号を付記する方法(3)」によって行う必要があります。

 

後発事象の注記

 決算日後に発生した事象で、翌年度以降の業績等に重要な影響を及ぼすと考えられる事象については、後発事象として注記する必要があります。

 後発事象として注記すべき事象は、通常、決算日後から監査報告書日までの間に発生した事象が対象となります。今回、有価証券報告書の提出期限が延期されたことにより、監査報告書日についても同様に延期されることが予想されます。

 そのため、後発事象の注記の対象となる事象の発生期間が通常より長くなると考えられるため、後発事象として注記すべきものがないか注意しておく必要がありそうです。

 

まとめ

 以上、「経理の状況」以降の開示情報で、新型コロナウイルスの影響で開示が必要になりそうな事項について紹介しました。長くなりましたので、「経理の状況」より前の部分の開示情報に与える影響については、次回紹介することにしたいと思います。

 今回紹介した内容をまとめると、以下のとおりです。

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(出所)参考文献に記載の情報を基に筆者作成

  この情報が皆様のお役に立てれば幸いです。

 

 

 

 

出典・参考文献

本稿において引用した文章の出典は以下に示すとおりです。

(1)日本公認会計士協会「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その4)」、2020年

https://jicpa.or.jp/specialized_field/20200422djf.html (2020年5月31日閲覧)

(2)企業会計基準委員会「新型コロナウイルス感染症の影響に関する開示『会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方(追補)』」、2020年

https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/20200511_432g_02.pdf (2020年5月31日閲覧)

(3)日本公認会計士協会「監査・保証実務委員会実務指針第77号 追加情報の注記について」、2003年(2018年最終改正)

https://jicpa.or.jp/specialized_field/20180219qsf.html (2020年5月31日閲覧)

 

本稿の執筆にあたり参考にした情報は以下のとおりです。

日本公認会計士協会「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その5)」、2020年

https://jicpa.or.jp/specialized_field/20200508ija.html (2020年5月31日閲覧)

 

日本公認会計士協会「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その3)」、2020年

https://jicpa.or.jp/specialized_field/20200415aja.html (2020年5月31日閲覧)

日本公認会計士協会「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その2)」、2020年

https://jicpa.or.jp/specialized_field/20200410ijj.html (2020年5月31日閲覧)

日本公認会計士協会「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その1)」、2020年

https://jicpa.or.jp/specialized_field/20200318fcb.html (2020年5月31日閲覧)

金融庁「企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」、2020年

https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20200417_kaiji/beshi1.pdf (2020年5月31日閲覧)

金融庁「新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報の開示について」、2020年

https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20200521/01.pdf (2020年5月31日閲覧)

金融庁「新型コロナウイルス感染症の影響に関する記述情報の開示Q&A -投資家が期待する好開示のポイント-」、2020年

https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20200529_kaiji/01.pdf (2020年5月31日閲覧)

 

企業会計基準委員会「新型コロナウイルス感染症への対応(会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方)」、2020年

https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/20200409_429g_02.pdf (2020年5月31日閲覧)